経済
SDGsの目的のひとつ
インクルーシブ社会とは?
実現に向けた取組みや課題を解説
2023/2/21
近年、「インクルーシブ社会」という言葉を耳にする機会が増えてきました。インクルーシブ(inclusive)とは「包括」という意味で、インクルーシブ社会とは、多様性を認め、すべての人が支え合いながらともに生活できる社会をいいます。インクルーシブの考えはSDGsの目標においても重要視されています。
インクルーシブ社会は「SDGs」の目的のひとつ
インクルーシブ社会の実現は、「SDGs」の目的のひとつとされています。
SDGsとは、2015年に国際連合で採択された「持続可能な開発目標」のことです。2030年までに世界をよりよくするため、17の目標が掲げられています。
4つ目の目標は、「すべての人が、公平で質の高い教育を受けられる世の中を目指す」とされており、インクルーシブ教育の推進が深く関わっています。
教育や福祉だけでなく、各企業も提供する製品やサービスに対して、インクルーシブ社会の実現に向けた取組みをしています。
例えば障がい者向けの「バリアフリーデザイン」にとどまらず、外国人でも使いやすいデザインの商品が開発されるようになり、そうしたデザインは「インクルーシブデザイン」と呼ばれています。
商品、設計、サービスなどにおいて、インクルーシブな「もの」や「こと」が増えていくことで、多様な人々が暮らしやすい社会に変わっていくかもしれません。
そのため、これからの社会では、インクルーシブの考えをしっかりと理解していくことが、個人においても企業においても重要になってきます。
そこで、本記事では、インクルーシブの考え方をご紹介し、その必要性やインクルーシブ社会の実現に向けた取組みと課題について詳しくご紹介します。インクルーシブについて理解を深めたい方は、ぜひ参考にしてください。
目次
■インクルーシブ社会とは共生社会のこと
■インクルーシブ社会実現への進捗状況
・総合教育の概念を超えてインクルーシブ教育が普及
・教育学上の概念がビジネス界へ波及
・多様性を皆で認め合う
・違いを包み込んで受け入れる
■インクルーシブ概念が実現させた具体例
■インクルーシブ社会の実現に向けた日本の5つの課題
・1.適切な人員配置や教育
・2.環境整備費用
・3.保護者や地域との連携
・4.当事者への教育支援
・5.心身に障がいを持つ方の市場への参加
■継続的な取り組みがキーポイント
インクルーシブ社会とは共生社会のこと
インクルーシブ社会とは、害がいや性別、年齢などあらゆる多様性を認め、すべての人が公正に暮らすことのできる「共生社会」のことをいいます。
冒頭でご紹介したとおり、インクルーシブ(inclusive)は「包括」という意味をもちますが、「排除」を意味するエクスクルージョン(exclusion)の反対語でもあり、「排除しない」という意味合いをもちます。
インクルーシブ社会実現への進捗状況
現在、インクルーシブ社会の実現に向け、日本を含む世界中が歩みを進めています。
本項では、教育・ビジネスの観点から、インクルーシブ社会の実現に向けた取組みをご紹介します。
総合教育の概念を超えてインクルーシブ教育が普及
インクルーシブという言葉が注目されるようになったきっかけは、教育界からでした。
インクルーシブ教育(インクルージョン)は、1990年前後からアメリカやカナダを中心に広がりはじめ1994年のユネスコ国際会議で「サラマンカ声明」が提唱されたことがきっかけとなり、世界中に認知されるようになりました。
サラマンカ声明とは、1994年6月7日から10日にかけ、スペインのサラマンカで、UNESCOとスペイン政府によって開催された世界会議「特別ニーズ教育世界会議:アクセスと質」にて採択された声明のことです。
1980年以前のアメリカや日本では、統合教育(インテグレーション教育)という概念のもと、すでに障がい児と健常児がともに学べる環境づくりが進められていました。
しかし、当時の統合教育では障がい児と健常児が同じ教室にいることだけに焦点が当てられ、配慮の不足などの問題点があがっていました。
そうした背景のもと新しく提唱されたインクルーシブ教育では、障がいの有無に関わらず、個人それぞれへの配慮(合理的配慮)が重要視されるようになっていきました。
- 統合教育......障がい児と健常児を同じ教室に入れようとするが、環境や配慮面で不足があった
- インクルーシブ教育......合意的配慮のもと、共生のための環境を整えながら1人ひとりに合った教育を行う
2006年には国連総会で「障がい者の権利に関する条約」が採択され、インクルーシブ教育について言及しています。日本でも2007年にこれに批准して以降、文部科学省が中心となりインクルーシブ教育に取組んでいます。
教育学上の概念がビジネス界へ波及
はじめは教育学上で用いられていたインクルーシブの概念ですが、近年ではビジネスの世界でも重要視されるようになってきました。
ビジネスにおけるインクルーシブとは、以下のような状態を指します。
- 戸籍や国籍、性別、学歴などにとらわれず、すべての人が就業機会を得られる
- 多様性を活かし、協力しながら、すべての人が能力を発揮できる
- 経済下層の人々を置き去りにせず、継続的な経済成長・コミュニティ全体の成長を目指す
インクルーシブの概念をビジネスに取り入れることによって、組織に様々な人材・考え・刺激がもたらされます。それにより、新たな価値やイノベーションが生まれる可能性は大いにあるでしょう。
インクルーシブ社会では、そうした多様性を認め、すべての人が尊重し合い、支え合うことのできる社会を目指します。哀れみや同情、義務感からではなく、自然とお互いを認めて助け合えるような関係が理想といえるでしょう。
インクルーシブ社会の実現のためには、以下の2つを目指す必要があります。
- 多様性を認め合う
- 違いを包み込んで受け入れる
多様性を皆で認め合う
インクルーシブ社会を実現するための入口として、まずは多様性を認め合うことが大切です。ここでいう多様性とは、「障がい」「病気」「国籍」「文化」「宗教」「年齢」「性別」などを指します。
これまでの社会は「より多くの人の幸せ」を重視する傾向にあり、マイノリティの人々は排除されたり、我慢を強いられたりしてきました。健常者や多数派が中心の社会で、マイノリティの人々はその存在すら認識されず、社会から排除された存在だったのです。
そうした人々の存在を意識していくことで、共生社会に近づくことができるでしょう。
違いを包み込んで受け入れる
多様性を認めることができたら、次はその違いに目を向け、違いを受け入れていくことが重要です。これは、すべての人が疎外や不都合を感じることなくともに暮らせる状態が、インクルーシブ社会であることを意味しています。
具体的には、違いがあってもお互いが暮らしやすいように環境を整え、一緒に暮らせる社会を目指します。単に存在を認識するだけでは、インクルーシブな状態とはいえません。
もう少しわかりやすく解説しますと、これまでのマイノリティの社会的な位置づけとしては、以下3つの状態があげられていました。
- 排除......社会から隔離された状態
- 分離......健常者・多数派の社会から分離された状態
- 統合......社会の中にはいるが、グループとして分離された状態
現在、すべての人々が送る日常生活の中に存在するあらゆる障がいや障壁(バリア)をなくす、という意味のバリアフリーの考えは、世界各国や日本国内で浸透してきています。インクルーシブ社会ではバリアフリーの考え方を一歩進めて、多様性をもつ人々が皆、包括的に共生できる社会を目指しているのです。
インクルーシブの概念は、企業の人材不足解決や継続的な市場成長の一助となりうるのです。
インクルーシブ概念が実現させた具体例
日本でもインクルーシブの概念のもと、様々な取組みやサービスが生まれています。以下は、インクルーシブ概念が実現させた取組み・サービスの一例です。
- 重層的支援体制整備事業......市区町村全体の支援機関・地域の関係者が断らず受け止め、「属性を問わない相談支援」「参加支援」「地域づくりに向けた支援」の3つの支援を一体的に実施することを必須とする事業。
参考:厚生労働省 重層的支援体制整備事業について - 包括的支援体制構築事業......高齢者へのケアマネジメントに対し、主に地域包括支援センターにおいて相談窓口を連携し包括的に支援を行う事業。
参考:厚生労働省 包括的支援体制の構築に向けた基本的な考え方 - 参加支援事業......すべての住民が、社会とのつながりを作ることを目的に、支援を行う事業。
参考:厚生労働省 重層的支援体制整備事業 「参加支援」推進のための手引き
インクルーシブ社会の実現に向けた日本の5つの課題
日本でも厚生労働省を中心とし、教育面やシステム構築においてインクルーシブ社会の実現へ向けた取組みが持続的に行われています。
しかし、完全なインクルーシブ社会の実現には、まだまだ多くの課題が存在します。
本項では最後に、インクルーシブ社会の実現に向けた今後の課題についてご紹介します。
1.適切な人員配置や教育
障がい児と健常児を同じ教室で教育するためには、専門知識を有した教員・スタッフの配置が必須です。しかし、現在の学校のあり方ではそうした人員の確保が難しい現状にあります。要するに、人員不足です。
加えて、子どもたちがインクルーシブ教育を学ぶ機会をいかに設けられるかという問題もあります。多くの課題が山積となっている教育界で、整備が整わないままインクルーシブ教育を導入してしまうと、教員に多くの負担を強いることにもなりかねません。
2.環境整備費用
続いては、環境整備の難しさです。例えば、車いすの子どもが通常学級で学ぶためには多目的トイレなどバリアフリー設計が必要であり、改修のためには多大な費用がかかります。
手足が不自由な子どもでも使える教材づくりなども同様です。
これまで通常の学校、特別支援学校と分かれていた施設を統合するためには、多くの費用と時間がかかるでしょう。
3.保護者や地域との連携
インクルーシブ教育を進めるためには、保護者や地域の理解を得ていく必要もあります。学校は地域に根差した施設であり、保護者や地域住民の理解と協力がなければ、インクルーシブ教育の実現は難しいのです。
具体的には、共同学習(居住地校交流)の促進や学校外の人材活用、関係機関や親の会、NPO、学校ボランティアとの連携などがあげられます。
4.当事者への教育支援
幼稚園・保育園・認定こども園などにおいてインクルーシブ保育を進めるなど、障がい児に対する早期支援を充実させることは必須課題です。また、日々の授業においてその子に適した支援ができることはもちろん、特別支援教育コーディネーターによる継続的な支援や、キャリア教育・就労支援といった長期的な支援をどう広げていくかも課題といえます。
このように、当事者への一時的ではない、連携的・継続的なサポートが重要です。
5.障がい者の市場への参加
日本では、障がい者のサポートが十分とは言い難い現状があります。学校教育が終わると、今度は就労の問題が出てきます。
障がい者の社会参加に関わる情報が充足していないことで、企業側は先入観や固定概念が邪魔をして積極的な採用に踏み込めていない状況にあります。
障がい者の特性を理解できていないためどのような仕事を任せればよいのか判断がつかない、現場の教育不足、環境整備が十分に整っていない、企業規模が小さい場合兼務する仕事が多くハードルが高い、といったことから、障がい者雇用に積極的に取り組めていない企業があることも現状の課題です。
そのような状況でも、事務職や清掃職、コールセンターや工場内作業など、障がいの理解や配慮を示し、特性と仕事内容をマッチさせる企業もあります。
1人ひとりが違うことに価値があることを社会全体で認識し、すべての人が違いを活かしていける社会を目指していきましょう。
継続的な取り組みがキーポイント
インクルーシブ社会の実現には、まだまだ多くの課題が山積となっています。しかし、その必要性への理解は、確実に広がってきています。
社会の未来を担う子どもたちへのインクルーシブ教育をはじめ、多くの人が互いを理解し認め合い、行動していくことで社会は変わっていきます。
誰ひとり取り残されない未来のため、今後も課題をひとつずつ解決していきながら、継続的な取組みを続けていくことが大切です。
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(提供元:全研本社)