経済
宇宙界隈ちょっと気になる話
vol.01 宇宙服の進化
2025/7/4
私たちは、広い宇宙の中に存在する小さくて美しい「地球」という星に住んでいます。
「宇宙に行ったことがある」「生きているうちに宇宙に行くぞ」という地球人が少しずつ増えてきた今、はるか彼方の星々に暮らす宇宙人たちは、「あの青く光る星に行ってみたい」と思っているかもしれません。あるいは、すでに地球に来たことがある宇宙からの訪問者もいるかも...。
身近になりつつある宇宙について、「気になること」を探ります。
最近の宇宙服、「シュッとしてる!」と思ったことはありませんか?大気圏を飛び出して、過酷な環境の宇宙に行くには、生命を維持するためのさまざま機能が必要です。宇宙服は大きく2種類あり、打ち上げ時や地球帰還時に着る「船内与圧服」と宇宙空間で活動する時に着る「船外活動服」。『小さな宇宙船』ともいわれるほど高機能な宇宙服の進化を見てみましょう。
■宇宙服の始まり
宇宙服の始まりは、飛行機や気球などのパイロットが着用していた与圧服。飛行機の性能がよくなって、高度の高い上空まで飛ぶようになり、気圧・気温・酸素濃度が低い状態でも安全に呼吸できる服が必要になったのです。宇宙服はそれをベースに作られました。
世界で最初に使用された宇宙服は、1961年に旧ソ連で開発された「SK-1」で、人類で初めて有人宇宙飛行に成功し、「地球は青かった!」の言葉を残したユーリイ・ガガーリンが着用しました。
同時期に、アメリカでも有人宇宙飛行計画「マーキュリー計画」が実施され、パイロット用の与圧服をもとにした宇宙服が作られました。アルミなどの素材を使った、強度が高く、超高低温にも耐えられる構造でした。
■アメリカの船外宇宙服の進化
「ジェミニ計画」(1961年~1966年)
この計画で、初めて船外活動が計画され、宇宙船と宇宙服をホースでつないで呼吸気を送れる船外活動服が登場しました。宇宙飛行士のエド・ホワイトは23分間宇宙遊泳を行いました。
しかし、船外活動をすると体温が上昇し、激しく体力を消耗してしまうことが判明。また、湿気でヘルメットの中が曇ってしまうことや、宇宙服を十分に冷却できないことも課題でした。
「アポロ計画」(1961年~1972年)
人類が月面に降り立つというミッションを達成するため、宇宙飛行士が月面を自由に動けるように改良され、月の石や砂利が当たっても損傷しない丈夫な素材が採用されました。背中には、呼吸用の酸素や水、電池などが入った生命維持装置を背負う形となり、これがNASAの船外活動ユニット(EMU)の原型となりました。
当時は誰もがテレビの前に釘付けになり、宇宙服を着た人たちの一挙手一投足を見守りました。
「スペースシャトル計画」(1981年~2011年)
断熱性能や可動性を大きく向上させたEMUが完成しました。EMUは宇宙飛行士の体をすっぽりと包み込む「宇宙服アセンブリ」と、背中に取り付けるランドセルのような「生命維持装置」によって構成されています。
宇宙服アセンブリは14層の素材を重ねた生地でできており、体温調整、気密維持、高温や外的要因からの保護など、宇宙飛行士の体を守る機能が充実しています。生命維持装置には、酸素の供給や二酸化炭素の
現在の船外活動服
1982年に登場したEMUは、40年以上経った今も同じものが使用されています。複雑な構造な上にすべて手縫いのため、その縫製技術が継承されず、追加で製造することができなかったといわれています。現在ISS(国際宇宙ステーション)では、依然としてNASAのEMUと1970年頃に開発されたロシアのオーラン宇宙服が使用されており、船外活動服の開発が長い間停滞していたことを物語っています。長年にわたり、複数の宇宙飛行士が同じ宇宙服を使いまわしているということも驚きですね。
■テレビで見たことある!船内与圧服
ロケットの打ち上げ時や地球帰還時に、私たちがテレビで目にするのは「船内与圧服」です。船内与圧服は、宇宙船に万一のトラブルが起きた場合に、自動的に気圧を調整し、酸素を供給する機能があり、緊急脱出して海に着水した場合にも、内部に水が入らないよう完全防水になっています。
NASAでは、1986年のスペースシャトル・チャレンジャーの事故以来、緊急避難システムを備えたオレンジスーツを着用するようになりました。このオレンジスーツ着用の際に背負うパラシュート・バックには、緊急用酸素システム、救命ボート、サバイバルキット等が装備されており、その重さは約43㎏。着るのも脱ぐのも、歩くのも一苦労です。
船内与圧服は宇宙船ごとに開発されており、ロシアの宇宙船「ソユーズ」で着用されるのは、白地に青い模様が入った「ソコル宇宙服 」で、ソコルはロシア語でハヤブサの意味。着陸時の衝撃から体を守るために座席と一体化している宇宙服で、座席のシートはクルーの体にピタリと合うよう石膏で型取りして作られています。
お腹のところから袋の中に入り、入口の部分を束ねてヒモで縛り、最後に表面生地のジッパーを閉める特徴的な宇宙服です。
■スタイリッシュで動きやすい、新しい宇宙服へと進化
アメリカでは民間の宇宙ビジネス企業が宇宙服の開発に乗り出し、2020年にスペースX社が打ち上げた宇宙船「クルードラゴン」 の船内与圧服は、スタイリッシュなデザインが注目を集めました。ヘルメットは3Dプリンターで作られており、グローブはタッチパネルに対応。総重量は約10㎏と軽量で、動きやすさに加えてビジュアルの美しさも兼ね備えています。
さらに、従来の船内与圧服は自分で操作して与圧服内の気圧や温度を調節していましたが、この与圧服はクルードラゴンの座席に座ると自動でコントロールしてくれるシステムが搭載され、進化を遂げています。
40数年間開発が止まっていた船外活動服についても、テクノロジーを駆使した高機能な宇宙服の開発が進んでいます。スペースXが開発した 民間初の船外活動服 は、船内・船外共用の宇宙服で、ヘルメットには宇宙服の圧力や・温度・湿度などを表示するディスプレイが組み込まれています。
2026年に予定されている有人月面探査計画「アルテミスⅢ」に向けてアクシオム・スペース社とプラダが共同開発したのは、高い耐久性と柔軟性を備えた月面探査用の「AxEMU」。
手足が動かしやすく、さまざまな体型の人に対応するよう設計されています。
世界をリードするファッションブランド、プラダならではの素材や製造技術に関する専門知識とデザインが生かされ、機能と美しさを両立させた宇宙服となっています。
宇宙服の進化により、宇宙での幅広い活動が可能になり、研究も深まっていくことでしょう。そして、戦隊ヒーローのようなカッコよさが子どもたちの憧れとなり、宇宙への興味につながるかもしれませんね。