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宇宙界隈ちょっと気になる話

Vol.05 宇宙での活動を支える「宅配便」

2025/12/11

宇宙界隈ちょっと気になる話 Vol.05 宇宙での活動を支える「宅配便」

私たちは、広い宇宙の中に存在する小さくて美しい「地球」という星に住んでいます。
「宇宙に行ったことがある」「生きているうちに宇宙に行くぞ」という地球人が少しずつ増えてきた今、はるか彼方の星々に暮らす宇宙人たちは、「あの青く光る星に行ってみたい」と思っているかもしれません。あるいは、すでに地球に来たことがある宇宙からの訪問者もいるかも...。
身近になりつつある宇宙について、「気になること」を探ります。

宇宙の起源や構造、未知の惑星について知り、地球の未来に役立てるため、宇宙飛行士たちは今日も国際宇宙ステーション(ISS)でさまざまな研究や実験を行っています。
ISSに長期滞在する宇宙飛行士たちの食料や衣料品、実験や研究に必要な道具や材料は、どのようにして運ぶのでしょうか?宇宙への「宅配便」について、見てみましょう。

宇宙界隈ちょっと気になる話 Vol.05 宇宙での活動を支える「宅配便」

■ISSに荷物を届ける「補給機」

ISSには、通常6人の宇宙飛行士が滞在し、研究や実験などそれぞれのミッションを行いながら生活しています。ISSでは保管の場所が限られるため、水や食料、衣類、研究や実験のための資材など、必要な物資は定期的に補給機によって届けられます。

ISS計画がスタートして以来、世界各国では物資や実験機器などを運ぶ補給機の研究開発を進め、日本の「HTV(H-II Transfer Vehicle)『こうのとり』」、アメリカの「シグナス」「ドラゴン」、ヨーロッパの「ATV」、ロシアの「プログレス」などが誕生しました。

1981年~2011年にかけて、ISS建設やISSでの活動のために宇宙飛行士や物資の輸送を担ったのは、アメリカの「スペースシャトル」です。2010年に退役することが決まり、それに代わる高性能・大容量の補給機が必要となり、NASAに日本が輸送を受け持つことを提案しました。日本が独自に開発した無人輸送機「HTV」が初めて宇宙に飛び立ち、ISSに物資を届けたのは2009年のことです。

■船内用・船外用の物資を一度に

日本の補給機「HTV」には、2号機から『こうのとり』という愛称が付けられました。約6トンの物資を運ぶことができ、食料や衣類、実験装置などをISSに送り届け、不要になったモノや使用後の衣類などを積み込んで、大気圏に突入。燃え尽きてその役目を終えます。機体は全長10m・最大径約4.4mと、バスより一回り大きい円筒形で、機体を動かすための「推進モジュール」と制御機能を担う「電気モジュール」、荷室にあたる「補給キャリア」で構成されています。

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補給キャリアは、地球上と同じ気圧を保つ与圧部と、気圧を調節しない非与圧部があり、与圧部には食料や水などの生活用品を、非与圧部には大きな船外機器や装置などを載せて運びます。ISSと結合した与圧部には、人がそのまま入って物資を運ぶことができ、非与圧部には大きな開口部があり、ISSのロボットアームで外部から取り出すことができます。船内用・船外用の物資を同時に運ぶことができる『こうのとり』の補給能力は世界最大級を誇りました。

■日本発・画期的なドッキング方式

ロケットで打ち上げられた『こうのとり』は、ISSの下方10mの位置に近づき、ISSと同じ速度で並走します。両方とも地球のまわりを秒速約7.7kmで動いていますが、ISSから見ると静止しているような状態にある『こうのとり』を、ISSのロボットアームでキャッチしてドッキングします。
しかしこの技術は、「ISSに滞在する宇宙飛行士の人命に関わる」としてNASAから猛反対を受けました。それまでは宇宙飛行士が搭乗する「スペースシャトル」がISSに直接近づいてドッキングする方法をとっていましたが、HTVは、当時世界初の無人補給機。地上とISSからコントロールし、ISSの下方10mの位置に静止させることは大変難しい技術であり、NASAにとっては突拍子もない発案でした。しかし、直接ISSに接触させるよりも安全であると考えた日本の開発チームは、何度も設計を見直して改良を重ね、実証実験を繰り返して技術を完成。NASAの理解と協力のもと、成功を収めました。

世界からも注目され、安全で確実な方法であると認められたこの「ランデブー・ドッキング方式」は、その後他国でも採用され、今やスタンダードになっています。

■次世代補給機へバトンタッチ

「こうのとり」は、通算9回の補給ミッションを成功させ、2020年にその運用を終えました。2018年には、搭載した小型カプセルを日本に帰還させることにも成功しました。大気圏に再突入しても燃え尽きず、目標地点付近にうまく落下させる技術を実現したのです。

日本は、「こうのとり」の後継として新型宇宙ステーション補給機「HTV-X」を開発しました。2025年10月26日、種子島宇宙センターからの打ち上げに成功し、30日にISSに到着。油井亀美也宇宙飛行士がロボットアームでキャッチし、ドッキングしました。
HTV-Xは、ISSへの物資補給だけでなく、補給を終えた後は超小型衛星の放出、通信実験、次世代宇宙用太陽電池の実証実験など、多くのミッションを行い、宇宙で3カ月間みっちりと働く予定です。さらに、月探査「アルテミス計画」や、新たな月軌道の基地「ゲートウェイ」建設などに活躍が期待されています。

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「こうのとり」のような愛称については検討中で、一般公募の可能性もあるようです。宇宙の新しい扉を開くHTV-Xのニックネーム、一緒に考えてみませんか?

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